アルファロメオ渾身のスーパーカー、「8Cコンペティツィオーネ」!速さではなく「感性」を追求した、唯一無二の存在

アルファロメオ8c正面

このコラムを担当していると、「スーパーカーをスーパーカーたらしめている要素ってなんだろう?」と考えずにはいられません。価格、性能、投入された技術、スタイリング、希少性…そうした「採点項目」もあるにはありますが、結局は個人の価値観による部分が大きいと言えるでしょう。極論を言えば、その人が「このクルマはスーパーカーだ!」と言えば、それはスーパーカーなのです。それくらい、「スーパーカー」という言葉には多くの可能性があり、それはそれで素晴らしいことだと筆者は考えています。

今回紹介するアルファロメオ・8Cコンペティツィオーネは、スーパーカーと呼ばれるクルマの中でも、とりわけ過去の名車を彷彿とさせるデザインや演出、そして乗り味が数多く散りばめられたクルマです。どちらかというと性能の高さばかりが重視されるスーパーカーの世界に、一石を投じた存在とも言えるでしょう。今回の記事では、生産を終えてから10年が経つこのクルマの魅力をあらためて紐解きます。

全世界500台の限定車

アルファロメオ・8Cコンペティツィオーネは、2006年にフランスのモーターショーで量産型が発表されました。生産台数は、全世界限定で500台。発表と同時に世界中から予約が殺到し、日本においては、日本での価格が公式発表された際には既に完売済み、という異例の事態となりました。生産された500台のうち、日本へは70台が正規輸入されています。

ちなみに、8C コンペティツィオーネのオープンモデルバージョンである「8Cスパイダー」も存在し、こちらは2008年のジュネーブショーでデビューしました。搭載されているエンジンは同一で、生産台数も同じく500台限定となっています。2010年末まで生産が続けられましたが、こちらも8Cコンペティツィオーネと同じく、発表と同時にほぼ完売となるなど、非常に高い人気を誇りました。

8Cコンペティツィオーネの名前は、アルファロメオのかつての名車から取られています。8Cはイタリア語で「8 cilindro」、つまり8気筒を示します。1930年代は、「8C」の名前が冠されたクルマたちが数多く活躍しました。「コンペティツィオーネ」はイタリア語で競争を示し、伝説の公道レース「ミッレ・ミリア」で1949年と1950年に3位を獲得したレーシングカー、1948年製「6C 2500 コンペティツィオーネ」から取られています。8C コンペティツィオーネは名前に「コンペティツィオーネ」が付けられているものの、レースへの参戦を全く意識していない当モデルにこのネーミッグをするのは、個人的にはいささか疑問に感じるのですが…。

参考:アルファロメオ渾身のスーパーカー、「8Cコンペティツィオーネ」買取専門ページ!

フェラーリ直系の自然吸気エンジンを搭載

アルファロメオ8c後ろ

アルファロメオにとって8C コンペティツィオーネは、SZとRZ以来、久しぶりの2シーターのFRスポーツカーとなりました。このクルマのベースとなったのは、同グループに属していたマセラティ・クーペです。2003年のフランクフルトモーターショーで8C コンペティツィオーネのプロトタイプが出展された際、フロントに収められていたのはマセラティ製の3.2リッターV8ツインターボエンジンでした。

アルファロメオ・デザインセンター所属のヴォルフガング・エッガーが手がけたデザインは、プロトタイプからの変更はほとんどないまま市販化されました。一方でエンジンは変更されています。採用されたのは「F136 YC」型と呼ばれるフェラーリ直系の自然吸気エンジンで、F136系の派生エンジンは、フェラーリ・F430や458イタリアにも搭載されていました。

エンジンは4,691ccのV8DOHCで、450ps/7000rpm、47.9kgm/4750rpmというスペックを発揮します。1気筒あたりの排気量は約586ccとなっており、低回転域から街乗りに適した太いトルクを確保。一方で、可変バルブタイミング機構などによって高回転域までの鋭い吹け上がりをも両立した、珠玉のパワーユニットとなっています。今の世の中では非常に貴重な、大排気量の高回転型自然吸気エンジンのひとつです。

トランスアクスルの採用で理想的な前後重量配分を実現

アルファロメオ8c斜め前

パッケージングについても、当時の最新技術と過去へのオマージュが巧みに組み合わされた、とても魅力的なものになっています。シャシーは、マセラティと同様のスチール製フレームに、カーボンファイバー製キャビンを組み合わせています。組み立てそのものも、モデナにあるマセラティの工場で行われました。

搭載されているトランスミッションは、グラツィアーノ製の6速マニュアルトランスミッションとマネッティ・マレリ製の自動変速システムを組み合わせた「Qセレクト」と呼ばれるセミオートマチック。フェラーリの「F1マチック」やマセラティの「カンビオコルサ」と同様のシステムとなっています。コクピットのセンターコンソール部には従来のシフトレバーはなく、備え付けられたスイッチとステアリング裏のパドルシフトで操作する仕組みです。

8Cコンペティツィオーネの前後重量配分は49:51と理想的な数値を達成していますが、その大きな要因となっているのが、アルファロメオ伝統のトランスアクスルレイアウトです。通常、エンジンの直後に位置するトランスミッションは、このモデルではプロペラシャフトを介して後輪の車軸側に置くことで、低重心化と重量バランスの適正化を図っています。

空力付加物なしで「マイナスリフト」を実現

アルファロメオ8c運転席

サスペンションは、前後ともにダブルウィッシュボーン式を採用しています。現代のスーパーカーのような可変ダンパーは備わっていませんが、セッティングは硬すぎず柔らかすぎず、絶妙なしつけとなっているとのこと。ブレーキシステムを手がけたのは名門ブレンボ社で、フロントは6ポット、リアは4ポットのブレーキキャリーパーを採用。制動力はもちろんのこと、フィーリングにもこだわった極上のブレーキとなっています。

450psの大出力を受け止めるタイヤは、フロントが245/35ZR20、リアが285/35ZR20という、大きく太く薄いサイズが採用されています。特徴的なデザインのホイールは、アルファロメオでよく使われるデザインモチーフ「四つ葉のクローバー」が元になったスタイリッシュなもの。優美な8Cコンペティツィオーネの足元をキリリと引き立てています。

古典的なFRそのもののロングノーズ、ショートデッキスタイルの8Cコンペティツィオーネには、大きなリアウイングやこれ見よがしなフロントスポイラーは装着されていません。とは言え、このクルマは最高速度は292km/hに達するスーパーカー。空力対策は十分に取られており、高速域ではボディを地面に押し付ける、「マイナスリフト」と呼ばれる効果を得られるデザインとなっています。

コックピットも、伝統的な造形とハイテク素材が同居した魅力的な空間です。メーターは右にタコメーター、左にスピードメーターを配したオーソドックスなスタイル。バケットタイプのシートを含め、昔ながらのスポーツカーに則った眺めではありますが、一方で先述の通りセンターにはシフトレバーはなくスイッチが配置されるのみ、センターコンソールやメーターナセル、シートバックなどの素材はカーボンファイバーで設えられています。

感性に訴えかけてくるスーパーカー

アルファロメオ8cシート

8Cコンペティツィオーネは、サーキットでのラップタイム短縮を目指すようなスーパーカーではありません。美しく調律されたエンジンのサウンドを、出来のいいトランスミッションで操りながら楽しみ、フィーリングと制動力に優れたブレーキで減速して、トランスアクスルレイアウトならではのナチュラルなコーナリングを体感する。デザインの美しさと、五感に訴えかけるフィーリングをじっくりと楽しむ、いわば「感性に訴えかけるスーパーカー」と言えるでしょう。

世界は、「CO2削減」の命題のもとに大変革期を迎えており、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンを搭載するクルマが新車で販売されなくなる時は、すぐそこまで迫ってきています。今まで販売された内燃機関が搭載されたクルマも、いずれ公道を走れなくなる日が来るかもしれません。もしそんな時代が到来してしまった時に、人々の記憶に残るのはアルファロメオ・8Cコンペティツィオーネのような、感性に訴えかけるスーパーカーではないでしょうか。世界に500台しかない「宝石」たちは、手に入れられた幸福なオーナーたちの元で、これからも大切にされていくに違いありません。

[ライター/守屋健]