精密機械を彷彿とさせる精緻なスーパースポーツ、アウディ・R8。完璧主義の奥に透けて見えるアウディの情熱とは?

ホンダ・NSXの初代モデルの登場以降、世界のスーパースポーツカーは快適性を無視できない時代に突入しました。現在新車で買えるスーパーカーは、洗練の度合いや演出の差こそあれど、1990年代のスーパーカーに比べて、より進化した快適性や街中での実用性を備えています。

そんな現代のスーパーカーの中でも、とびきりの快適性と実用性を備えた「完璧・万能なスーパーカー」として名高いのがアウディ・R8。「あまりにも洗練されすぎていて面白くない」という意見も中には見受けられますが、筆者にはその洗練の奥にこそ、アウディがこのクルマに込めた情熱や本音が垣間見えるような気がします。今回はそんなアウディ・R8の魅力に、じっくりと迫っていきます!

アウディ初のスーパースポーツ


アウディ・R8は、2006年から2019年現在まで生産が続けられている、アウディ史上初のスーパースポーツカーです。2003年のフランクフルトモーターショーに「アウディ・ルマン・クワトロ」というコンセプトカーが出展され、このモデルが直接のベースモデルとなりました。アウディ・R8は2016年に最初のフルモデルチェンジが行われ、現在生産されているのは2代目モデルとなります。

アウディ・R8は、V型8気筒エンジンまたはV型10気筒エンジンをミッドシップに搭載する2ドアクーペまたはオープンカー(「スパイダー」と呼ばれる)で、乗員は2名。アウディのフラッグシップスポーツモデルとして君臨しています。

ボディ構造上の最大の特徴は、ASF(アウディ・スペース・フレーム)と呼ばれるアルミ製のスケルトンフレームです。このフレームのおかげで、ボディ単体重量を200kg台に収めることに成功するなど、アウディ・ R8の軽量化に大きな役割を果たしています。フレームはほとんどの部分が熟練工の手作業によって溶接・製作され、完成後の検査にはX線を用いてミクロン単位までチェックするなど、非常に高い工作精度の追求が行われています。

駆動方式はアウディのお家芸とも言える4輪駆動システム「クワトロ」を搭載。ミッドシップスポーツカーのシビアになりがちなハンドリングを抑え、誰にでも安心してスポーツ走行を楽しめる仕上がりとなっています。トランスミッションは当初6速オートマチックのみでしたが、のちに6速マニュアルもラインナップされました。

参考:スーパースポーツ、アウディ・R8買取専門ページ!

初代モデルの最初のエンジンは、4.2リッターの自然吸気V8のみで、最高出力は420psを発生。日本では2007年7月から1,670万円で販売され、「アウディ初のスーパースポーツ」「2000万円を切る価格の貴重なスーパーカー」として大きな話題となりました。

2009年には525psを発生する5.2リッター自然吸気V10エンジンを搭載した「5.2FSIクワトロ」と登場。さらに2010年には「5.2FSIクワトロ」をベースにしたオープンモデル「スパイダー5.2FSIクワトロ」をリリース。ラインナップを充実させていきます。

2013年にはフェイスリフトとトランスミッションの変更が行われました。新型の7速デュアル・クラッチ・トランスミッション「Sトロニック」を搭載し、性能向上が図られています。

2代目R8はV10エンジンのみ


アウディ・R8は2016年にフルモデルチェンジを実施。2代目モデルへと移行しました。先代に用意されていたV8エンジンは廃止され、V10エンジンに一本化。5.2リッターの排気量に変更はありませんが、チューニング違いで二つのモデルがラインナップ。540psの「R8 V10」と、610psの「R8 V10 plus」が導入され、価格はR8 V10」が2,456万円、「R8 V10 plus」が2,906万円と、初代モデルのデビュー当初に比べるとかなり値上がりしています。先代モデルに続き、スパイダーも2017年7月から販売が開始されました。

この2代目R8は、同じグループ企業のランボルギーニとのつながりがより強くなっており、ランボルギーニ・ウラカンとの共通部分も少なくありません。一方で、アウディ・スペース・フレームやクワトロシステムは最新型にアップデートされており、かつインテリア・エクステリアともに外観上でウラカンとの共通点を見つけることは困難なほど、きちんとした差別化が図られています。というより、同じ素材を使って、アウディとランボルギーニそれぞれが「最高の料理」を作ろうとした結果、というべきなのでしょう。

さらに進化した現行モデル


2019年2月(日本においては8月24日)に、アウディはR8の一部改良を発表。日本への導入は2019年12月以降を予定しています。

ラインナップはさらに整理され、クーペとスパイダー、それぞれ1グレードのみとなりました。導入されるグレードの正式名称は「R8 クーぺ V10 パフォーマンス 5.2FSI クワトロ Sトロニック」と「R8 スパイダー V10 パフォーマンス 5.2FSI クワトロ Sトロニック」で、価格はそれぞれクーペが3,001万円、スパイダーが3,146万円(どちらも10%の消費税込み価格)と、ついに3,000万円に到達。

直接のライバルは、同じVWグループのランボルギーニ・ウラカンのほか、フェラーリ・F8トリブート、ホンダ・NSX、マクラーレン・570Sといったあたりでしょうか。しかし、こうしたライバルたちとR8(そしてウラカン)との決定的な違いは、未だに自然吸気エンジンを搭載しているという点でしょう。R8は、大排気量自然吸気エンジンが味わえる、最後の砦のひとつとなりつつあるのです。

最新モデルに搭載されるエンジンは、排気量こそ5.2リッターと変わらないものの、この自然吸気V10エンジンの最高出力はついに620ps、最大トルクは59.1kgmに到達。リッターあたり119psを発生するハイチューンエンジンとなっています。0〜100km/h加速はクワトロシステムの恩恵を受けてわずか3.1秒で完了、最高速度はリミッター制御で331km/hと、アウディの市販車史上最高性能を獲得するに至りました。

インテリジェンスの裏に透ける「レースへの情熱」


一方で、乗り心地や実用性については少しも失われていないのがアウディ・R8の大きな特徴です。ロードクリアランスは十分に確保されていて、買い物などで遭遇する段差への対応力は現行スーパーカーの中でも随一。使いやすく視認性に優れた「バーチャルコックピット」と呼ばれるフルデジタルメーターディスプレイや、アウディ伝統の緻密なインテリアの仕上げ、乗り心地とホールド性を両立した仕立ての良いシートなどが、毎日の運転を楽しく充実したものに変えてくれます。

7速という、今ではそれほど多くない段数のデュアルクラッチトランスミッション「Sトロニック」ですが、制御の確かさ、完成度は他車から抜きん出ています。100分の数秒でシフトチェンジを完了しつつ、変速ショックは体感できないほど小さく抑えられていて、アウディの技術力を垣間観ることができます。

運転のフィーリングについても、荒々しさを感じる場面はほとんどなく、ただひたすら精緻で、高性能な機械が動いている、という印象です。レーシングマシンである「R8 LMS」と約50%の部品を共用しているという、ある意味「ロードゴーイングレーシングカー」でありながら、どこまでもインテリジェンスを感じさせる走り。

しかしそれが、アウディにとっては、「レースに勝つための条件の一つ」と考えているのでしょう。過酷な耐久レースで勝つためには、ドライバーに四六時中緊張を強いるようなクルマでは勝てません。アウディの、そうしたモータースポーツで培われた「哲学」や「情熱」が、一番ピュアなかたちで体験できるクルマがR8だと言えます。

R8の後継車は存在しない?


2019年、アウディの現CEOであるブラム・ショット氏は「R8の後継車の計画はない」と発表。現行モデルが最後のR8となることが示唆されています。自然吸気の大排気量V10エンジン、クワトロシステム、アウディ・スペース・フレーム…珠玉のコンポーネントで構成されたアウディのスーパースポーツカーを新車で手に入れられる最後のチャンスは、すぐそこまで迫ってきています。購入を検討されている方は、ぜひお早めに!

[ライター/守屋健]